★「MikuMotionCapture」関係小史:VTuber前史シリーズ①

 

*筆者の考えている、ここ数年の疑問のひとつとして「なぜ2016年12月にキズナアイが誕生したか」というものがある。これは非常に難しい問いだが、VTuberを考えるうえで興味が尽きない問題でもある。
筆者が注目したいのは、VTuberの前史において、VTuberが成立しても不思議ではないタイミングが幾度かあったことである。今回取り上げる「MikuMotionCapture」は、そうした例のひとつである。
VTuberの構成要素のひとつとして、モーションキャプチャーは本質的なものである(この点に関してはまた別の機会に述べる)。「MikuMotionCapture」とは、MMDMikuMikuDance)とKinectを組み合わせて、モーションキャプチャーを試みた動画に付けられたニコニコ動画のタグである。その技術的な側面に関しては、ニコニコ大百科などの記事を参照。
本稿は、このタグが付けられた動画を分析するものではなく、MMD杯やKinectの情報発表タイミングを整理した簡易年表を提示し、最後に現代からみた考察を加えるものである。詳しい解説というよりも、触れられることの少ないこのタグを紹介する意味合いが強い。

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---【2007】---

・2007/08/31:初音ミク発売。
*初音ミク発売からMMDが完成するまでの間、「VOCALOID3D化計画」「初音ミク3D化計画」といったタグでの動画投稿が相次いでなされる。

---【2008】---

・2008/02/22:クリプトンのガイドラインが改定。プログラム作品が解禁。

★2008/02/24:樋口優(樋口M)氏によってMMDが公開される。
http://nico.ms/sm2420025

・2008/07/26〜2008/08/17:第1回MMD
*優勝作品:https://nico.ms/sm4242615

---【2009】---

・2009/01/30〜2009/02/24:第2回MMD
*優勝作品:https://nico.ms/sm6150411

★2009/06/02:KinectがE3 2009のカンファレンスにおいて「Project Natal」の名前で発表された。
https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/212162.html
*公開されている動画(公式)
https://youtu.be/g_txF7iETX0

・2009/07/24〜2009/08/24:第3回MMD
*優勝作品:https://nico.ms/sm7936201

・2009/09/25:東京ゲームショウ2009で
Project Natal」の技術デモが行われ、記事になる。
https://www.itmedia.co.jp/news/spv/0909/25/news088.html

---【2010】---

・2010/01/22〜2010/02/23:第4回MMD
*優勝作品:https://nico.ms/sm9692478

・2010/06/13:ロサンゼルスで開催された「The World Premiere Kinect for Xbox 360 Experience」にて正式名称が「Kinect」であることが発表。
https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/374370.html

・2010/07/30〜2010/09/06:第5回MMD
*優勝作品:https://nico.ms/sm11820316

・2010/09/16-19:Kinect東京ゲームショウ2010に登場。一般向けに試遊台が公開。
https://www.4gamer.net/games/092/G009280/20100918033/

・2010/11/04:Kinect、北米で発売。

★2010/11/20:Kinect、日本で発売。
https://akiba.keizai.biz/headline/2201/

★2010/11/30:「MikuMotionCapture」タグ最古の動画。
http://nico.ms/sm12898511

★2010/12/19:MMDKinectに対応(Ver.7.24)し、モーションキャプチャ機能がつく。

・2010/12/21:MMDKinectの試みがITMediaに取り上げられる。
https://www.itmedia.co.jp/news/spv/1012/21/news089.html
*参考動画:すでに、現在VRゲームで体感できる要素を先取りしている。
https://nico.ms/sm13083588

---【2011】---

・2011/01/21〜2011/02/27:第6回MMD
*優勝作品:https://nico.ms/sm13571564

・2011/02:「MikuMotionCapture」タグは2011/02から動きが鈍くなり、2014/04/09が最後の動画。

・2011/07/29〜2011/09/03:第7回MMD
*優勝作品:https://nico.ms/sm15356096

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▼考察:なぜ「MikuMotionCapture(以下、MMCと略記)」はVTuberになり得なかったか?

①既存のキャラクターへの執着
上記の動向の副産物として、自分が初音ミクになれる喜び?を示す「俺がミクだ」という言葉が生まれた(詳しくはニコニコ大百科を参照)。この言葉からわかるように、MMC勢は≪既存のキャラクターになる≫という意識から自由になれなかった。
⇒現代からみると、VTuberにとって決定的だったのが「ねこます」の存在だろう。オリジナルキャラクターをつくり、それになりきる、という方向性。ただし、こうした「なりたい自分になる」的な理念にも歴史がある:みゅみゅ、のらきゃっと、YouTuber等。

②「人間らしい動き」が不必要
MMC勢は、動きそのものの完成度やモデル操作のしやすさ(MMDや動画としてのクオリティ)を優先し、「人間らしい動き」を追求しなかった(その必要がなかった)。(そうした動きがなかったわけではないが、メインではなかった。)
⇒「人間らしい動き/リアリティ」は、キャラクターが生きていることを強調したいVTuberならではの美学を満足させるものである。MMDに生々しさは必要不可欠ではないのであって、生きている感じや生々しさに拘泥するのがVTuberらしい。歴史としては、伊達杏子がこの路線に挙げられるだろう。

③技術畑の閉鎖性(営業・広報の不在)
「生主」「歌ってみた」「踊ってみた」界隈などとの深いつながりがなかった。そのため技術畑で話が完結し、外から発見されなかった。
⇒技術が使われないまま放置されてしまう問題は人類あるあるだが、ここでも発生していた。VTuber関係で言えば、初期のLive2D、初期のみゅみゅなどが挙げられる(両者とも結果的に発見された)。現在も、ライブ配信に特化した技術は見えやすくなったものの(特に3Dライブ)、VRC勢などが日々進めているであろう技術革新は、当事者以外は見えにくくなっているのが現状ではないか。

④マネジメントの不在
①~③を満たす、VTuberに通ずるアイデアがあったとしても、アイデアを実現しようとする(またはその能力がある)人物がいなかった。
VTuberに独特な理念や美学を想定したうえで、技術と人間を繋げるタイプの人間がいなかった(しかし、この時期にそれらができた人間はよほどの超人である)。また、資金調達をする力、市場で競争する胆力などをもった人物もいなかった。こうした要素を満たしたのが、キズナアイ(のチーム)であると考えられる。ポン子は広報止まりであり、外部との競争とは無縁だったのではないか。