◆周防パトラの作詞センス①

*周防パトラの楽曲を聴くと作詞のセンスに脱帽するものが多いので、どうにか言語化したいと思い書き始める。とりあえず3回に分け、3曲を分析していく。

 

①2018/07/27:あいあむなんばーわん!パトラちゃん様!

https://youtu.be/71D8RTud9XU

 

主従関係を歌うアニソン・キャラソンは今までもあった。たとえば、「スキ?キライ?スキ!」(ルイズ)、「だめ!」(三千院ナギ)、「ひれ伏せ愚民どもっ!」(IOSYS)など。時代を感じるし、釘宮理恵率が高いのはパトラとの関係性を考える上で決して偶然ではないのだが、ここでは言及しない(知りたい人はリプ等でお知らせください)。ともかく、これらの楽曲に共通するのは「歌い手が優位に立っている(立とうと試みている)」という点である。主従関係は一方向であった。


上記のパトラの曲では、主従関係が一部逆転し双方向になっている。サビで「しつけがなってない主人はあたしよ」と歌うように、様々な禁止を言いつける飼い主は、つねに犬に拘束されている。犬の視点を常に観察することでしか、「よそ見」をしているかどうかは把握できないからだ。このとき、主従関係は鮮やかに逆転している。その結果、楽曲全体としてみたときに主従関係は双方向に変化する。初見では一方向の禁止に見える歌詞の内容が、すべて逆転したものに感じられる。


またパトラの表現は、10年以上前のアニソンより直接的でポップなものになっている。ナギの「だめ!」では、外面は「手をつなごう」という言葉を言うにも勇気が必要であること、その内面では「いっしょがいいんだ」と歌われており、内面と外面のギャップが鮮やかである。教科書的なツンデレである。対してパトラは、曲の最初では「ツン」らしい言葉があるものの、サビで「結局かまってちゃん寂しがり屋なの」とあっさり認めてしまう。外面/内面という差異・奥ゆかしさ(深さ)が消え、よりポップなキャラクターを強調している。曲調も相まって、ツンデレというよりもデレデレに近く感じられてくる。


このように、この楽曲は従来のアニソンの文脈を踏襲しつつも、①主従関係の逆転・双方向性、②ツンデレとみせかけたデレデレ・ポップで直接的なキャラクターを表現している点で、独創的なものである。